ウィズ・ハート・アンド・ヴォイス
With Heart and Voice
 「ウィズ・ハート・アンド・ヴォイス」は、ミネソタ州アップルヴァレー高校の創立25周年を記念して作曲された曲である。作曲者は、同校の芸術への強い熱意に心惹かれてこの依頼を引き受けたのだそうだが、話はこれだけではない。この曲のテーマとなっている賛美歌は、「Come,Christmas,Join to Sing」という古いスペインの賛美歌であるが、ギリングハムはこの賛美歌が特にお気に入りの曲であり、実はこの賛美歌はアップルヴァレー高校の校歌としても歌われていたのだった。ギリングハムはこのことに運命的なものを感じ、作曲に着手したそうである。なおタイトルは、この賛美歌の歌詞が「Let all,with heart and voice〜」から始まる事から付けられた。

 曲は、静かに、そして不安な響きとともに始められる。テーマの断片がバスーンやトロンボーン等の弱奏によって奏でられ、やがて厚みを増して音量も緊張感も最高潮に達する。再び静けさを取り戻すと、フルートが新しい主題を奏でる。この第2テーマはギリングハムのオリジナルであり、校歌の主題との対位を成している。新しい学校で学生達が得る使命感を歌ったこのテーマは、ユーフォニウム、ホルンへと引き継がれ、やがてファンファーレへと発展する。
 やがてテンポを速めた音楽は、不協和音や激しいリズムを駆使した展開部へと流れ込み、劇的シーン、挑戦とその勝利、不安感など、学校生活で得られる様々な経験が、様々な音楽スタイルで描かれていく。
 再現部では、再びフルートに使命の主題が歌われ、今度は2つの主題の融合が計られる。バンドは木管、金管、打楽器の3つのグループに分けられ、目まぐるしい変拍子に乗せて主題の断片を組み立て、その緊張感を解く間もないまま華麗なオーケストレーションで終結部まで一気に駆け抜けていく。

 作曲者のデイヴィット・ギリングハムは1947年生まれのアメリカ人作曲家。「ベトナムの回顧」「黙示録の幻想」など、賛美歌をテーマに様々な変奏でコラージュ風の音楽を編み上げるという作風を得意としており、この曲もそうした手法を効果的に使って、ドラマティックな作品に仕上げられている。現在は中央ミシガン大学の作曲の教授を務める他、ピアノ奏者、オルガン奏者、ユーフォニウム奏者としても活躍している。

【追記】最近の曲としては「目覚める天使達」「ソング・アンド・ダンス」「エアロダイナミクス」などが話題となっている。また、打楽器アンサンブルの曲もカッコ良くて人気があるが、バスドラムを8台使ったり、マリンバを3台つかったり……と演奏不可能に近い曲が多い。

部報「ぽこ・あ・ぽこ」vol.304,2004年5月増刊号に掲載