スー族の旋律による変奏曲
 この曲について作曲者のプロイアーは次のように述べています。
「ダコタ・インディアンはかつて北アメリカの大平原を自由に渡り歩いていました。彼らは普通の言語を共有する遊牧の種族の国として作り上げていました。インディアンにとって"ダコタ"とは"同盟国"という意味です。彼らは白人にとって一般的に"スー族"として知られています。この言葉は他の種族によってダコタに与えられた名前のフランス語訳である"Nadouessioux(ナドースー)"からとられています。
 スー族は初めは狩猟で生活していました。彼らは一つの野獣としては十分な食料や衣服やテントを供給してくれる野牛(バッファロー)で充分生活してゆけました。彼らはキャンプからキャンプにたやすく移動できる獣の皮でおおった天幕を使っていました。
 白人が西に移住してきて以来、スー族の物語りは次第に増大する絶望的な勝負に対して勇敢に奮闘する種族となります。シッティング・バル、レッド・クラウド、ガルとクレージー・ホース等の強大な指導の下に彼等は降伏か死のどちらかをえらぶまで戦いました。1876年のカスター将軍に対する勝利も、白人の征服の前進を止めるのに充分ではありませんでした。そして1890年彼らの悲劇的な闘争はワンデット・ニーの大虐殺で終わりを告げたのです。」
 このスー族の美しく物悲しげな民謡のメロディを主題として作曲されたのがこの変奏曲です。
 曲はインディアン独特のトム・トムのリズムからはじめられ、やがてフルートとクラリネットがユニゾンでメロディを歌いはじめます。これはサキソフォンや低音のクラリネットで繰り返され、次に第1主題のオッシナートのパターンをくりかえし、この上に高音の木管が主題を奏します。
 第2変奏は8分の6拍子のマーチ、第3変奏はオーボエでゆっくり4分の4のメロディにかえられます。
 第4変奏は打楽器から開始される小フーガ風な変奏曲です。この変奏曲は4分の4拍子をまじえながら発展し、2分の3拍子のゆっくりした、第5変奏に入ります。最後の第6変奏は4分の4拍子のアレグロで、木管が3連符でかざり、壮大なクライマックスを作って終わります。
 個人的な想い出ですが、この曲は自分が中学3年生の時に、吹奏楽祭や学校祭で最後に演奏した曲です。6小節のチューバのソロを精一杯の思いをこめて吹いた記憶があります。けして難しい曲ではないけれど、作りがいがあるというか、とてもエネルギッシュで、インディアン(ネイティブ・アメリカン)の悲哀や勇敢さが、とても音楽的に描かれています。ドラマティックに演奏したいですね。
 作曲者のジェイムス・D・ブロイアーは、1926(昭和元)年アメリカのノースダコタ州生まれ。中学校のバンド・ディレクターとして勤務した後、フリーの作曲家として活躍しました。「ファースト・ディヴィジョン・バンド教本」が作られたとき編集者の一人として参画しており、やさしい吹奏楽曲を数多く作・編曲しています。 この「スー族」は1976年、ノース・ダコタ州ボティノーにあるインターナショナル音楽キャンプ・バンドのために作曲されたものです。

部報「ぽこ・あ・ぽこ」236号より